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    ―AIやIOT、DXは、どこから来てどこへ行くのか―➃

2019.12.20

西郷正宏(日本システムウエア(株))

【論文】情報産業史から見たITトレンドの本質と意義
―AIやIOT、DXは、どこから来てどこへ行くのか―➃

【論文】情報産業史から見たITトレンドの本質と意義<br/> ―AIやIOT、DXは、どこから来てどこへ行くのか―➃

昨今、AIやIOT、DX(デジタルトランスフォーメーション)など、IT(情報技術)に関連する略語や外来語がトレンドワード(流行語)として氾濫しているといわれる。以前からIT業界内では略語や外来語が業界用語や技術用語として常用されていたが、今やビジネス用語や日常用語として一般紙にも頻繁に登場していることが、以前までとは違う点である。 本論は、1970年代から技術者(システムエンジニア)として情報システムの開発や運用に携わり、その後も経営企画や広報などのスタッフとして40年以上にわたってIT業界に身を置いてきた者として、周囲で生まれては消えていった数多くのITトレンドについて、その表面上の意味ではなく、言葉の奥にある本質と意義について考察を試みたものである。(全4回) ※(一社)日本経営管理学会「経営管理研究」第9号掲載

①【~1970年代】はこちら
➁【1980年代】【1990年代】はこちら
③【2000年代~】はこちら

おわりに

(1)実現すると消滅するトレンドワード

このように情報産業史に沿ってITトレンドを見てくると幾つかのことに気付かされる。ひとつは「その言葉が示す状況が実現したらトレンドワードは消滅する」ことである。考えてみれば当然であるが、言葉というものは実体を表わすと同時に他のモノと区別するために存在している。例えばブロードバンド(広帯域)という言葉はデータ通信サービスの帯域幅が従来より広いことを意味するが、殆どのサービスが広帯域化したら言葉として使われなくなるだろう。

いま盛んに提唱されているIOT(Internet Of Things)は、あらゆる機器や媒体がインターネットに繋がって大量のデータ(ビッグデータ)を情報システムで扱えるようになる世界観を示している。実際にはまだそのような状況は実現していないが、近々「インターネットに接続していない機器や媒体なんてどこにもない」という時代になるだろうし、そうなったらIOTという言葉は意味を失うだろう。またその時点ではその程度のデータはけっして大量ではなく当たり前になる(ビッグではなくなる)ので、ビッグデータという言葉も消滅するに違いない。

(2)ITトレンドの意義は技術よりニーズ

ITトレンドの栄枯盛衰を見て、もう一つ気付かされることは"歴史は繰り返す"ということである。例えば現在のトレンドワードのひとつであるRPA(Robotic Process Automation)とは、人工知能やソフトウエアロボット等の技術を用いて、主に定型的な事務業務を自動化する試みであるが、これは70年代に提唱されたOA(Office Automation)と目的は同じである。同様に前述したAI(人工知能)も、技術的な進展によって何度もトレンドワードとして登場したが、その言葉の奥にある目的は"人間の頭脳の代わりになる存在"であり、これはもともと人間がコンピュータに求めていた願望や理想の一つである。なぜこのように"歴史は繰り返す"のかといえば、時代によって技術や手法は進化しても根源的なニーズは変わらず、またそのニーズがまだ満たされてはいないからだろう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、ITによって顧客のビジネスに革新をもたらすことだが、このトレンドの源流は80年代のマルチメディア化にある。コンピュータが扱えるメディア(媒体)は当初は数字のみだったが、アルファベットや記号、そして2バイト化によって多言語にも対応し、さらに画像、音声、動画へと「マルチメディア化」した。これをメディアの側つまり対象側から見れば「(そのメディアが)デジタル(コンピュータ)化」したことになる。印刷、出版、放送などの業界は活版やフィルムやテープなどを用いていたが、コンピュータによってデジタル化されてビジネス革新が起きたのである。従っていまDXというトレンドが持つ意義とは「まだITによってデジタル化することでビジネスを革新できる領域やニーズが残っている」ということであろう。

つまりITトレンドの持つ本質的な意義とは、それが直接示す技術や手法(How to)ではなく、その奥にある目的やニーズ(Why)であり、そしてそれはまだ実現していない、と認識すべきである。

(3)ITは「モーター」になれるか

 そこで私が思い出すのは"パソコンの父"アラン・ケイの"モーターの話"である。20世紀に入って電力が普及しモーターが開発された頃、当時の有識者は「モーターは便利な道具なのでいずれ全家庭に1台普及するだろう」と予言した。現実には家庭内には1台どころか無数のモーターが稼働しているが人々は意識していない。アラン・ケイは「コンピュータが世の中に普及して誰も意識しなくなり、コンピュータという言葉が使われなくなった時、コンピュータは本当に成功を収める。ちょうどモーターのように」と語った。既にコンピュータは半導体チップとなってモーターのようにあらゆるモノに潜んで誰も意識しなくなってきている。では、ITはどうだろう。ITトレンドが示すニーズが満たされ、それらの言葉を誰も使わなくなり意識もしなくなった時にITは本当の成功を収めるのだろうか。

【参考文献等】M.E.ポーター「競争の戦略」土岐坤:訳、ダイヤモンド社、1982
R.T. デラマーター「ビッグブルー IBMはいかに市場を制したか」青木栄一:訳、 日本経済新聞社、1987
・マイクロソフトプレス編「実録!天才プログラマー」岡和夫:訳、アスキー出版、1987
・西郷正宏「NSWの戦略市場計画」早稲田大学システム科学研究所、1988
・チャールズ・ワイズマン「戦略的情報システム 競争戦略の武器としての情報技術」土屋守章、辻新六:訳、ダイヤモンド社、1989
Alan Curtis Kay「アラン・ケイ」鶴岡雄二:翻訳、浜野保樹:監修、アスキー出版、1992
・坂村健「痛快!コンピュータ学」集英社、1999

#IT業界#論文

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